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「出現する未来」を実現する7つのステップ ――「ダウンローディング」(前編)U理論が導くイノベーションへの道(1/3 ページ)

 思い込みが激しく、その人自身の意見を曲げる余地もなく、久々に会ったとしても何を言い出すのか想定がつく。自分の「枠組」の中で生きている。その人から斬新なアイデアが生まれるだろうか?

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 前回はスティーブ・ジョブズ氏の言葉を引き合いに出しながら、内なる声に従い変化や創造を生み出していくための指針となるイノベーション理論として「U理論」を紹介しました。今回から数回にわたって「U理論」で提唱されているイノベーションのプロセスとその実践の鍵を紹介します。

「出現する未来」を実現する7つのステップ

 それに先立ち、イノベーション理論としてのU理論の独自性と、重要な着眼点について再度簡単にまとめます。

 われわれは、意識しているかしていないかに関わらず、話す、考え事をする、食べる、運ぶ、泳ぐ、料理を作る、資料を作る、プレゼンテーションをする、眠るといった具合に、どの瞬間も何かしらの行動をしています。

 そして、今よりもより望ましい結果を得ようと思った時、その「やり方」を見直そうとするのが一般的なのではないでしょうか。「眠る」という行為ですら、より快適さを求めて、低反発枕を使ってみたり、エアコンをつけて眠ったりといった工夫をしています。

 そうした行動自体の見直しは、有効であることは間違いありませんし、数々のノウハウ本や周囲からのアドバイスによって、これまで出来なかったことが出来るようになるということは誰でも一度は体験のあることだと思います。

 一方で「やり方」はそれなりに工夫をしていたり、それ自体は他の人と遜色ないのに、思うように成果が上がらなかったり、周囲からの協力が得られなかったりするといった経験もあるのではないでしょうか。

 例えば、一生懸命相手に自分の気持ちを訴えているのに、相手に響いていない、理路整然と自分の主張を述べているのに、まったく相手は折れる気配がない。あの手この手を使ったにも関わらず、会議中眠っていたり、携帯電話を操作している人が減る気配がない。もしくは、何かしら「ものづくり」をして世の中に提供していたり、広告などによって不特定多数の人に訴えたりする仕事をしている人であれば、一見似通ったものであったとしても、反響の差が歴然としているといったことを経験したことがあるのではないかと思います。

 「U理論」の生みの親であるマサチューセッツ工科大学 スローン校 経営学部上級講師であるC・オットー・シャーマー博士は、画期的なイノベーションや、劇的なパフォーマンスの向上を生み出すための「てこの支点」は、「何をどうやるのか?」という「やり方」自体にあるのではなく、「その行動をどこからやるのか?」という「行動の源(ソース)」にあると言及しています。

 この「何をどうやるのか?」ではなく、「その行動をどこからやるのか?」という着眼の転換そのものがU理論の独自性であり、革新的で重要なポイントとなります。

 「U理論」は、画期的なイノベーションやパフォーマンスの向上をもたらすプロセスをアルファベットの「U」になぞらえてモデル化して紹介しています。また、そのUプロセスは、「行動の源(ソース)を転換するプロセス」「出現する未来を迎え入れるプロセス」、そして「その出現する未来を具現化、実体化するプロセス」のという3つに大別されます。

 その3つのプロセスを更に、詳細化し、下記の7つのステップとして提示しています。

 1、ダウンローディング(Downloading):過去の経験によって培われた枠組みを再現する

 2、観る(Seeing):判断を保留し、現実を新鮮な眼で観る

 3、感じ取る(Sensing):場から感じ取る

 4、プレゼンシング(Presensing):源(ソース)につながる

 5、結晶化(Crystalyzing):ビジョンや意図を明確化する

 6、プロトタイピング(Prototyping):実行、実験によって未来を探索する

 7、実践(Performing):新しいやり方、仕組み、習慣として実体化する


U理論 マサチューセッツ工科大学 上級講師 オットー・シャーマー(出所:Theory Uをオーセンティックワークスが一部改訂)

 普段はあまり聞きなれない言葉が多く、不安に感じるかもしれませんが、各回にて詳細を説明していきますので安心してください。なお、ここに記載している各ステップの概要ですが簡潔に表現するために敢えて単純化しています。

「行動の源(ソース)」を転換する鍵となる「社会的な土壌(ソーシャル・フィールド)」

 今回の号では、7つのステップの最初となる「ダウンローディング」が主題となりますが、その前にもう一つ重要な概念を紹介させてください。

 われわれは、時に「不毛な議論」「不毛な会話」「不毛な時間」といった言葉を使います。その時、われわれが着目しているものは、「不毛」という言葉からイメージされる通り「実りがあるか、ないか」ではないかと思います。そして、その「実り」のなさに辟易(へきえき)とした結果、上記のような表現をするに至っています。では、その「実り」がないのは、なぜなのでしょうか?

 「不毛」という言葉は、もともと「土地がやせていて作物や草木が育たないこと」を意味しています。もし、その意味のとおり、「実り」がないのは、「種」の問題ではなく、「土壌の質」に起因しているのだとしたら、どんなヒントが見えてくるでしょうか。

 オットー博士は、その「土壌の質」のことをそのまま「社会的な土壌(ソーシャル・フィールド)」という言葉で表現しています。博士は、どの時間も空間もイノベーションの「種」は宿っていて、そうした可能性の「種」は「芽」を出しうるという世界観に立っています。そして、その「種」から「芽」が出るかどうかは、「土壌の質」すなわち、「社会的な土壌(ソーシャル・フィールド)」にかかっていると見ています。

 畑から収穫を得るために、最初に取り組むことが土地を耕すことであるように、乾き、やせた「社会的な土壌(ソーシャル・フィールド)」を耕すことから、Uプロセスは始まります。その「社会的な土壌(ソーシャル・フィールド)」を耕すプロセスが、さきほど述べた「行動の源(ソース)を転換するプロセス」にあたります。

 それでは、「社会的な土壌(ソーシャル・フィールド)」の最初の状態、すなわち、乾き、やせた状態とは、一体どんな状態なのでしょうか?そして、その乾き、やせた土壌を耕すために、最初に取り組むことはいったい何でしょうか?

 その答えが今回の号で紹介する「ダウンローディング」と「保留」となります。前置きが長くなりましたが、ようやく準備が整いましたので、ここからその2つを紹介しましょう。

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